――須藤元気さんによるご紹介――
7月8日に「あらたにす」(日経・朝日・読売3社が共同で運営しているニュースサイト)の書評コーナーの「著名人が語るおすすめ本インタビュー」で、元、総合格闘家の須藤元気さんが『四つの約束』を取り上げてくれましたので、お知らせいたします。

<須藤元気さんが語るおすすめ本>
『四つの約束』(ドン・ミゲル・ルイス著、松永太郎訳)

 総合格闘技やK−1で活躍した須藤元気さん。2006年の大晦日、リング場で電撃の引退宣言以来、後進の指導はもとより、タレント、エッセーの執筆など、マルチに活躍されています。そんな須藤元気さんを強い男へと導いてくれた本について語っていただきました。

◆体の小ささを読書でカバーしようとした高校時代
 女の子が“きれいになりたい”と思うように、男の子なら“強くなりたい”と思うじゃないですか。そんな小さな憧れを本気に変えたのは、アメリカのUFCという金網の中で行われる総合格闘技を観戦してからのことでした。以来、総合格闘家を目指し、体を鍛え、高校に入ると迷わずレスリング部に入部しました。
 そんな高校生の頃は、マーフィーの法則で有名なJ・マーフィーや、『人を動かす』(創元社、1680円)のデール・カーネギーなど、生きていく上でこうすれば成功するというようなことが書かれた本をよく読んでいました。私は体が小さかったので、他の人たちと同じようにトレーニングするだけではダメだと思ったんです。何か格闘家として成功するヒント、役に立つ考え方がないものかと思って読んでいましたね。

◆格闘技にも通じるメキシコのシャーマンの世界
 本格的に本を読み出したのは二十歳を過ぎてからのことです。それまで、マジメに勉強してこなかったものですから、あまりにも物を知らない自分に気がついたんですね。それを何とかカバーしようと本を読み、1日3冊は読むようにしました。その頃読んだ本で、とりわけ印象に残っているのが、文化人類学者のカルロス・カスタネダがメキシコのシャーマンであるドンファンから学んだことをつづった『呪術師と私』(二見書房、2310円)などのシリーズです。
 メキシコのシャーマンというのは様々な儀式を通してこの世の真理を見つけるべく修行している人たちで、カスタネダがドンファンの語る“言葉によらないコミュニケーション”の重要性に着目したくだりがあるんです。これにはとても共鳴しましたね。格闘家はリングの上で言葉を交わしません。間合いや、呼吸で相手と語り合うんです。それとまったく同じなんですよ。この本を読んで“言葉によらないコミュニュケーション”をより一層意識するようになり、相手選手の心情や狙いを敏感に感じとれるようになった気がしました。

◆意識するだけで効果のある『四つの約束』
 ドン・ミゲル・ルイスの『四つの約束』も同じシャーマンの話を書いたものです。ここではシャーマンたちの教えを「噂話をしない」「思い込みをしない」「何事も個人的に受け取らない」「ベストをつくす」という4つのシンプルな言葉でまとめています。
 この4つは繋がっていて、他人、そして自分自身に対しても、噂話、弱気なことなどのネガティブなことを言わない。逆に何か言われても、それはその人が見ている夢にすぎないので、個人的に受け取って一喜一憂しない。あくまでも自分自身がやれるベストをつくす。それを心に決めて実行することで、世の中がより良い物に見えてくるということが書いてあります。もっとも、これはかんたんには実践できない。それでも意識するだけでとても効果があったんです。
 今、拓殖大学でレスリングを教えているのですが、まず、驚かされたのが学生達がしきりに「きついです」「辛いです」とネガティブなことを言うんですよね。前向きな言葉を言うようにいっても、ついクセで「きついです」と言葉に出してしまう。そこで、「きつい」などのネガティブな言葉を使ったら腕立てを追加するようにしたんです。すると、「きついか?」と聞くと「いや楽しいです」「気持ちいいっす」と答える(笑)。それでも最初のころはきつそうに言ってたのですが、やがて、本当に、平気になったり、楽しくなっていったみたいで、練習の質が格段に上がったんです。もちろんそのおかげだけではないですが、今年の5月にレスリング東日本学生リーグで優勝しました。ドン・ミゲル・ルイスから学んだことが生きたと思いました。

【プロフィール&近況】
須藤元気(すどう・げんき)
1978年生まれ。東京都出身。多彩な技と、変則的な動きから「変幻自在のトリックスター」というニックネームを持ち、格闘家として活躍。その傍ら、音楽活動や執筆活動など幅広い分野で才能を発揮。2006年に出版した『風の谷のあの人と結婚する方法』(ベースボール・マガジン社、1260円)は19万部以上のベストセラーとなる。同年現役を引退。この春からは、母校である拓殖大学の大学院に進むと同時に、同大学のレスリング部の監督も務める。最近の著作に、「キャッチャー・イン・ザ・オクタゴン」 (幻冬舎、1,365円)「愛と革命のルネサンス」 (講談社、1,470円)などがある。
※「外国に行くことが多いのですが、外国の人に日本の文化について聞かれると知らないことが多くて。もっと日本のことを知らなければと思い、最近、日本酒のきき酒師の資格をとりました」
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