『ルポ 現代のスピリチュアリズム』(宝島新書、定価:本体667円+税)について
「宝島新書」として出版されたこの本は、「スピリチュアリズム」をキーワードに、いわゆる「精神世界」の歩みを1970年頃からごく最近まで、種々様々な出来事や人物に言及しながら丹念にたどったものです。それも単に傍観者としてではなく、著者自身の切実な内面的苦悩などをからめてレポートしています。
 実は、この本の取材のために昨年後半に織田さんが小社の事務所を訪問し、主にクリシュナムルティのことで小生がインタビューを受け、その時お話したことが本書の最後の第5章でほぼ忠実に出てきます。なにぶん、インタビューに応じるなどということは不慣れなので、話したことはたどたどしいものだったと思うのですが、実際にそれを本書で読ませていただいたところ、とてもよく整理されていました。さすがプロのライターだと感心しました。
 そのインタビューの時に、織田さんが和田禎男さん((株)めるくまーる前社長)のことを少し話されたので、本の中で何か重要な位置を占めているのではないかという思いがふとよぎりました。和田さんにはだいぶ以前、1984年に『真理の種子』を出してもらった他、数冊のクリシュナムルティ関連書(いずれも訳書)の出版をお引き受けいただいたことがあり、大変ありがたく思っていました。また、故・高橋重敏先輩による3冊のクリシュナムルティ伝も刊行するなど、いわゆる精神世界関連書の紹介に重要な先駆的役割を果たされました。
 その和田さんのことが冒頭に出てくるので思わず読んだところ、1971年のめるくまーる設立から最近までの歩みが紹介されていました。1984年にクリシュムルティと物理学者デビッド・ボームとの対談やクリシュナムルティの講話を収録した『真理の種子』を出してもらった当時も、和田さんの個人的なことはなにも知らなかったのですが、今度改めてどのようなことをお考えだったのか、その一端を知ることができました。そして2001年には経営上の行き詰まりからうつ状態に陥り、それが5年ほど続いたと告白しておられます。そしてついに2007年、65歳になったばかりの時に社長を引退し、太田康弘現社長に引き継がれたことを知りました。編者も零細出版社の経営している者として、その難しさをずっと感じ続けてきましたので、和田さんに起こったことはとても人ごととは思えませんでした。
 「その後、長年連れ添った家族との決別の意を固めると、終の住処としてベトナムに移住することを決めた。2008年4月からは・・・ベトナム語を習い始めた」と織田さんは書いています。67歳の時のこの決断には、並々ならぬ思いが感じられます。そしてこの和田さんについて、さらにこんなふうに書いています。「私が和田氏と接したのは、わずかに三度しかない。にもかかわらず、私は『人生の師』と呼べる人物に、生まれて初めて出会えたような気がした。その出会ったばかりの師が、まもなく日本を離れる・・・」 そして今年1月6日の夜、織田さんは和田さんと居酒屋で話し合ったそうです。その詳細を知りたい方は、ぜひ本書をお読みになってください。
 以上、この場を借りて、かつてお世話になった和田さんへの感謝の思いを表させていただきました。
 和田さんのことが書かれているこの「プロローグ」にはまた、著者自身の歩みが率直に、リアルに述べられており、スピリチュアルなものへの関心が非常に切迫した思いから出たものであることがよくわかります。

 そして本書の内容ですが、それは以下の章題を見ればおよそ推測がつくことと思われます。●第1章 「世間」と超常なる世界の対峙●第2章 スピリチュアルセミナー潜入記●虚栄とエゴイズム●第4章 「本当に自分」との出会い●第5章 幸福を求める旅路
 この第5章で織田さんは、編者へのインタビューなどを踏まえたクリシュナムルティ紹介を展開しています。精神世界、特にスピリチュアルなものへの関心によって特徴づけられる最近のそれを、うっそうと樹木が生い茂った富士の裾野の「樹海」にたとえるなら、その中を果断に巡り歩き、通り抜けた先のあたりでクリシュナムルティという存在で出会ったというような印象を受けました。長年クリシュナムルティの紹介を任じてきた編者にとっては、彼に関心をもった人にまた巡り会うことができたように思いました。
 これを機に、織田さんはさらに新たな探求の乗り出されることでしょう。実際、この本の中ではトランスパーソナル心理学への言及も見られ、また日本トランスパーソナル学会の副会長菅靖彦さんも登場して、自説を披露しており、また、その菅さんのセミナーに織田さんは足繁く通っているとのことです。

 以上、興味深い、重要な本であると思われる『ルポ 現代のスピリチュアリズム』を紹介させていただきました。皆さんもぜひお読みになってください。

大野純一
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