『愛とその失望――人生の意味、セラピーと芸術』
デイビッド・ブレイジャー[著]/大澤美枝子+木田満里代[訳]
2,100円(税込)
ISBN978-4-434-17099-7 C0011
シンプルで力強い「アザーセンタード・アプローチ」の
理論と実践
本書は、「アザーセンタード(他者尊重)」という観点を、私達に生まれつき備わっている「愛」の能力から説明します。人の生(せい)の中心には、「他者を愛する」、「他者を愛すべき対象として尊重する」力の源泉があり、この「愛すること=生(せい)の推進力」という考え方は、非常にシンプルで力強い理論です。人の生(せい)の営みのあらゆる側面を説明することができるアザーセンタード理論のポイントとなる概念は、以下のように要約できます。
- 愛の推進力(the drive to love)は、人間であることの中核要素である(一次的な強い力)。
- 自己奉仕的な推進力(self-serving drives)がある(二次的、派生的な弱い力)。
- 二つの推進力の働きは、人(集団、文化)が他者をどう尊重するか、その在り方に現れる。
- 人間の活動の根底にある真の推進力は愛だという原理に立てば、たとえば、文芸批評や心理学の理論間の相違を和解できる。
人生において、ある物や人を“一心に”愛するという愛もあれば、日々の、ささやかな形をとる愛もあります。フラストレーションは愛に付き物です。愛の挑戦は、必然的に付随する失望や苦悩に打ち負かされずに、いかに愛し続けるかということです(本文4章)。愛は生せいを高め、生せいは多様な経験を伴います。愛はまた、人に他者の運命を気づかわせ、必然的に、深い悲しみもひきずることになります。人は、その結果として苦悩することなしに愛することはできず、他者を愛おしむ生せいは、幸福を産み出す一方、他のものも産み出します。そこに、生せいが彩りあざやかで、モノクロームではない理由があり、精神病理と人格発達の両方が起こる理由なのです(本文3章)。
「クライアントを援助する専門性を備え、クライアントのプライバシーに踏み込む覚悟ができていて、自ら進んでモデル、ガイド、友達になろうとしている」(フォーカシング指向心理療法家、ミア・ライセン)セラピストの仕事は、愛に挫折し、失望し、欲求不満になり、苦悩し、深い悲しみに沈んでいるクライアントに寄り添い、彼/彼女が潜在的な愛する能力について学び直し、それを再び取り戻すのを助けることです。そして、その愛するという潜在能力が、カール・ロジャーズが「自己実現」という言葉で意味したことだろう、と著者は言います。私たちに、生来の愛の能力を思い出させ、それを実現して、真に意味ある人生を復活させるのを助ける必要があるのです。
より意味深い人生を生きることを切望している一般の方々にも役立つヒントが満載!
- 《本書の内容》
- 背景にある理論
- 尊重の本質
- 芸術
- 文化および精神
- 理論の展開と実践
- 転移の問題と技法
- まとめ――人生の意味についての一考察