『抑鬱の文化と文化の抑鬱』
貴船哲治[著]
1,680円(税込)
ISBN978-4-434-17621-0 C0011
抑鬱の闇の奥から紡ぎ出された、誰も書かなかった物語
「抑鬱者」である著者が、哲学、文学、心理学、精神医学、社会学、等々の分野を横断して様々な思索を行ない、自分が侵されている病の根幹に迫るために立体的、総合的鬱把握を試みた、画期的論考集。
鬱の側から綴られた、痛切にして怜悧なる省察。「生還」へのヒントが満載である。
《稲賀繁美(国際日本文化研究センター教授)》
本書が扱う抑鬱者にとって、こと医療に関する限り、昔日とは比べものにならないほどの良質な環境が提供されていると言える。
しかし、一方で日本では所謂「気分障害」の患者数は平成十年代に二倍近く増加し、自殺者の数は毎年 三万人を超えている。「鬱病」と病院で診断を受けた者はもちろんだが、それ以外でも、抑鬱状態に苦しむ日本人の数は確実に増えていると言える。また、抑鬱に関する報道、出版が盛んに行われていることは、その事実の反映と考えてよいだろう。
本書では、こうした抑鬱の風土において人々が被る抑鬱状態についての総合的な考察を行う。分野は一切問わない。なぜなら、抑鬱者が直面するのは、医学的処置だけではなく、社会システムの与える状況だけでもなく、哲学的思索だけでもなく、文学的慰藉だけでもなく、恐らくそれら全てと、日々の経験の総体だからである。そして、その考察の目的は、読者(特に抑鬱者)に抑鬱状態に関する新しい視野を提供し、そのより明解な全体像を掴んでもらうことである。明解な像を掴むことは、その桎梏からの解放に向けての大きな前進となると筆者は考える。
(「序 抑鬱者は生き残る」より)
- 《本書の内容》
- 序 抑鬱者は生き残る
- 第一章 もがく禅
- 第二章 阿呆船に乗り込め!
- 第三章 アウトリーチ
- 第四章 死の陰の谷と「自由」
- 第五章 抑鬱者にとって読書とは何か?
- 第六章 「単独者」として
- 第七章 向精神薬の哲学
- 第八章 死という光源
- 第九章 緩衝地帯
- 第一〇章 笑う抑鬱者
- 第一一章 実験場としての時代閉塞
- 第一二章 反精神医学の潜在と顕在
- 第一三章 脱・逃走論
- 第一四章 ユングを夢見て
- 君の物語──あとがきに代えて