『伝統と革命――J・クリシュナムルティとの対話』
J・クリシュナムルティ[著]
2,310円(税込)
ISBN978-4-434-17850-4 C0011
インドの知識人たちとの30回にわたる対話録
「偉大な教師にまみえたからには、学びにいそしめ」(カタ・ウパニシャッド)という真摯な学びの精神でクリシュナムルティのまわりに参集したインドの知識人が、彼らの背景にあるインドの伝統的知識を引き合いに出しながら、様々なテーマについて話し合い、それぞれの意識とその中身である過去、心理的記憶、思考、悲しみ、死の恐怖、等々を徹底的に検証し直し、重荷としてのしかかっている「伝統」からの出口と、古い意識(脳)から抜け出し、新しい意識(脳)を生み出すこととしての「革命」の可能性を模索している。
一九四七年以来、J ・クリシュナムルティは、インドにいる間、さまざまな文化・教養的背景から集まった一群の人々──知識人、政治家、芸術家、サンニャーシなど──と定期的に会い、対話してきた。この年月の間に、探究の方法論が熟し、具体的になった。本書の対話には、あたかも顕微鏡を通して見るかのように、クリシュナムルティの並外れて流動的で、広大でかつ精妙な精神と、知覚の働く過程が現れている。これらの対話は、しかしながら、単なる問答ではない。それらは意識の構造と性質への探索であり、精神とその運動、その境界、そしてそれを超越するものへの探究である。それはまた、変容の道の模索でもある。
これらの対話にはいくつかのまったく多彩でまた条件づけられた精神の結集があった。そこには、クリシュナムルティの精神からの深い問いかけ、人間の心の深みを開示する容赦ない尋究があった。人は、〈限りなきもの〉(the limitless)の拡大と深化の目撃者であるのみならず、限られた精神へのその衝撃の目撃者でもある。そしてまさにこの探究が精神を柔軟にし、それをその即座の過去および幾世紀にもわたる条件づけの溝から解放する。
(「緒言」より)
東日本大震災と福島第一原発事故が起こった二〇一一年三月以来、それまでに積もり積もっていた諸々の虚偽が一気に噴き出してきました。これからはますます真贋、真実と虚偽、本物と偽物を識別する力を磨き、正しい方向感覚を身につけることが急務になってきたと思います。
本書に収録された、真善美への愛に支えられた一連の対話は、ますます混迷を深めつつある現代社会の中で私たちが正気を保ち、正しい道を歩み続けるのに役立つであろう知恵に満ちています。(「訳者あとがき」より)
《本書の内容》
1部 ニューデリーでの対話
●悲しみの炎●錬金術と突発的変化●悪の抑制●エネルギーの覚醒●最初の一歩が最後の一歩●エネルギーと変容●観察者と〈あるがまま〉●逆流運動●時間と劣化●死と生●美と知覚
第2部 マドラスでの対話
●因果の逆説●伝統と知識●葛藤と知識●探究の性質●秩序と観念化●対象、知識、知覚●エネルギーと断片化●自由と場
第3部 リシ・ヴァレーでの対話
●伝統の母体●グル、伝統、自由●自由と獄舎●精神の安定と知識
第4部 ボンベイでの対話
●脳細胞と突発的変化●神について●エネルギー、エントロピー、生命●英知と道具●正しい意思疎通●生物的存続と英知 ●精神と心