ふっきれて今ここに生きる― 創作体験と心理的成長の中心過程について ―』

村田進[著]

定価(本体2,000円+税)

ISBN978-4-434-22428-7 C0011

ふっきれて今ここに生きる― 創作体験と心理的成長の中心過程について ―

コスモス・ライブラリー版3部作(2014、'15、'16)の第三作である本書は、ヴァージニア・ウルフ研究に端を発した意識の流れと体験過程を結びつけ、文学と心理学の接点から創作体験を考案して具体化したものである。

それを学校臨床に取り上げて、不登校やいじめなどの実践的対応ツールとして開発したものであるが、その後、ケースを積み重ねて、本書において、パーソンセンタードの見方から提案した。本論において、「外」と「内」をつなぐ概念として見出した中心過程を表す「中」の概念は、創作体験がこの三位一体的な構成を可能にし、「つなぐ」統合的な意味と作用をもつことにより、心理的回復・成長の中心過程であることを実証的に明らかにするものである。
創作体験は、クライアントが「内」(感情)と「外」(行為)を調和・統合するように工夫された心理療法的枠付の下で自由と安全に「こころをころがせる」体験法として創案・創出された。それが、「灯台へ」創作体験、ペガサス・メディテーション、◯△□創作体験である。それは、「つくる創作体験」と唱えられ、そこから結実したのが、「内」と「外」に「呼応・一致・拮抗」してつなぐ体験過程:「自己推進力」の構成概念図であった。前書(2015)では、回復過程の推進とその中心過程の合成図を作成したが、本書では、それが「こころをころがせる回復・成長過程」として回復から成長への新たなレベルへと推進する象徴化の過程に喩えられた。
この考え方は、ジェンドリンに由来するが、元々は、哲学者ディルタイが、シェークスピアやゲーテなど文学研究から見出した「ハンドル」(行為・すじ)という概念や意図とは違うところに「引き寄せられる」力があることを発見したことに由来する。その考えをディルタイから引き受けたジェンドリンは、ロジャーズのもとで「ハンドル語」という象徴化の考えを推し進めて臨床の場面に応用し、フォーカシングを開発したことを思えば、体験過程の考え方は、哲学や文学や心理学を超える学際的な成果であった。
本書は、日本の心理療法の系譜をたどることにより、日本的な風土の中で生まれ育った心理療法には一脈通じるものがあるだけでなく、禅の考えにも通底することを示しつつ、一方で、体験過程心理療法の中にも位置づけられることを主にパーソンセンタードの考えから示した。


今日、ネット社会の中で、言葉は、文字だけがキーボードから遊離したように体と手から離れて虚しく行き来する一方、直近の社会現象にみられるように、若者がネットで人工知能ゲームに振り回される様子は、仮想現実の世界で、人間が頭と胴体から分離してまるで行き場を見失って、見境なく現実の中で探求する姿のように見える。
このような現代を取り巻く新しい文化情勢の中で、私たちは、今こそ、リアルを「外」にではなく自己の「内」に求め、血の通った手によって書かれた文字とその意味を見出して、自分らしく、人間らしく生きることがいかに大切かを考える時であると云ってもいいだろう。本書は、書く・物語るという行為の中で、失われた温かみのある個性や手を取り戻し、リアルの価値と意味の復興を求めて、自然や対人関係や自分自身との関係性を取り戻す体験的な方法を提案している。(著者)


【本書の内容】

プロローグ(目的)

本論

序論(方法論)

序章 「灯台へ」創作体験における中心過程について

第1部 創作体験法の展開

第2章 創作体験面接法の開発と方法について

第3章 授業─こころをころがせる○△□創作体験法を中心に─

第4章 禅マンダラ画「○△□」創作体験法について考える

第5章 体験過程尺度から見た「つくる」(枠づけ)創作体験法の心理療法的構造

第2部 創作体験グループ法の発展と理論

第6章 パーソンセンタードの学習グループとしての「創作体験」について

第7章 エンカウンターグループにおける課題(インタレスト)グループのあり方について

結論:深層とリアルと表層─過去・現在・未来─「灯台へ」第1章・2章・3章

エピローグ 在りし日の有馬研修会における畠瀬 稔先生

資料編

【好評既刊連作】

創作と癒し──ヴァージニア・ウルフの体験過程心理療法的アプローチ

文学と心理学の接点=Aすなわちヴァージニア・ウルフの主要作の精緻な読みとフォーカシング指向心理療法を含む体験過程理論の研究実践から導き出された「創作と癒しの世界」への誘い。

《定価2,000円+税》

体験過程心理療法──創作体験の成り立ち

本書は『創作と癒し』の連作として、故・畠瀬稔先生への哀悼の意をこめてつくられたもので、自己の中心過程に内包する有機的作用は、人生の外延に機微・機序・機縁となって表われ、かつ相互作用のもとに自己が世界の中で機能的な人間になることを指向していること明らかにした。

《定価2,000円+税》

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