復刻版シリーズ③近代篇 『人間の知恵の歴史 ― 宗教・哲学・科学の視点から ―』
大槻真一郎「著」、澤元 亙 「監修」
定価(本体2,200円+税)
ISBN978-4-434-28187-7 C0010
哲学・科学の「知」も宗教の「知」と同じく原生命や神性への没入・結合を求めている。
ルター、ヘーゲル、ニュートン…… 第三巻「近代篇」では、「生きる知恵」によって新たな市民社会を形成し、科学技術時代をもたらした人間が、近代国民国家という神話をめぐって翻弄されるまでを描き出す。「生きる知恵」を記述しながら同時代に応えようとした哲学史、シリーズ全三巻完結!
一見平凡にしか見えない当たり前の日常がいとも簡単に崩壊してしまう、そういう崩壊に直面した著者が問わざるをえなかったのが、どう生きるべきか、そもそも生きるとはどういうことか、ということでした。こうした答えの見つからない問いを繰り返し問い続け、著者なりの答えを出したのが本書です。本書は戦争・戦後の体験から書かれた哲学史です。(「まえがき」より)
【本書の内容】
まえがき
第一章 中世から近代へ 新しいものの芽生え
第二章 近代科学の成立 科学の代表的人間像・ガリレイとニュートンを中心として
第三章 近代哲学への道 経験の哲学(ベーコン)と理性の哲学(デカルト)
第四章 近代市民社会の成立とその思想 自由啓蒙思想家たち
第五章 ヨーロッパ的教養の観念的統一 カント、ヘーゲルを中心として
現代は「混沌と分裂」の時代です。SNSの普及により、情報は瞬時に拡散し、真偽を吟味することなく反応を強いられます。また、貧困層と富裕層、弱者と強者、敗者と勝者、その格差が拡大し、社会的な分断が始まっています。私たち現代人にとって社会とは、情報に翻弄される場、他人と競争する場でしかありません。紐帯の場ではないのです。個人にとって何と殺伐とした、ニヒリズム的な社会でしょう。グローバル化の反動で国家も分断と混沌の時代に入りました。それでも私たちは現実に向き合わねばなりません。では、どうしたらよいのか。
そのヒントを与えてくれるのが、ほぼ50年前の1972年に刊行された本書です。当時、世界では、ベトナム反戦運動、文化大革命などが起こり、国内では、反戦運動、成田闘争、水俣闘争など、激しい市民運動・学生運動がありました。こうした緊迫した情勢の中で、著者は、古代から近代まで宗教・哲学・科学の知恵の歴史をたどった独特な哲学史を通じて、「混沌と分裂の時代」に生きるヒントを人々に送ろうとしました。
本書は、現実に向き合い、時代に応えようとして書かれたメッセージ性の高い稀有な「哲学史」で、「生きる知恵の歴史」は、混迷の時代を生き抜くヒントになるのではないかと思われます。「VUCA」に特徴付けられる、まさに今の時代に時宜を得た待望の「哲学史」の復活であると言えるでしょう。