コラム〜編集日記〜

第37回


読者の皆様に暑中お見舞い申し上げます。今年は思ったより夏の勢いがないのではないかと感じさせる時期もありましたが、それを一気に挽回するかのように猛暑になりました。編者は、冷房のせいか、夏風邪をひいてしました。


しかしこの夏こそは「滝行」のシーズンです。実は御縁があって2004年7月に『瞑想から荒行へ--意識変容をめざして』を刊行したのですが、不幸にもそれから間もない10月に著者の佐藤美知子先生が急逝されました。これは桐朋学園大学で教鞭をとりながら、佐藤先生が主宰していた「湧気行」の中心メンバーとして活躍しておられた長谷川智さん他の皆様にとって大変なショックだったと思います。しかしその悲しみを乗り越え、佐藤先生の生前の思いに応えるため、2005年6月に『滝行--大自然の中、新しい自分と出会う』を刊行し、さらに今年7月『瞑想の妙宝--こころと向き合うための教え』を刊行し、これで佐藤先生の生前の念願であった「3部作」がひとまず完結しました。本の出版の背後には、多くの関係者の皆様の熱い思いが込められており、今回そうした企画の実現の一助となることができてまずはほっとしております。


『瞑想の妙法』の目次を見ると、とても充実した内容であることがわかります。


第一章 -- 瞑想修行の意味
● 瞑想の基礎 ● 自己の根源を求める本能


第二章 -- 調心のための準備
● 整理する ● 大きな人生を全うする ● あるがまま ● 無意識の方向


第三章 -- 身体的訓練・調息
● 坐法、呼吸法の基本 ● 気を下げる


第四章 - -集中から瞑想へ
● 遠山の目付 ● 三つの注意 ● それが凝視--クラスの風景
● 瞑想コンプレックス ● 原初の心 ● 藤の花のたとえ ● 主観移動


第五章 -- 瞑想深化のプロセス
● 存在自己と内なる自己


第六章 -- 行と現実をつなぐ
● あなたはどういう人生を送りたいの? ● 行と現実をつなぐ


解説


教室での具体的な教えの内容


湧気行からのメッセージ



そして『瞑想の妙宝』の出版記念ということで、7月16日に湧気行の皆さんの集まりに招かれ、佐藤先生の本の意義などについて、出版を引き受けさせていただいた者として一言ご挨拶しました。その際、湧気行の皆さんと歓談しましたが、実に幅広い分野の方々が参集していることがわかり、改めて佐藤先生の存在がいかに大きかったかを実感し、感銘を受けました。そして他界後もこのような心優しいメンバーの皆さんによって見守られ、しっかりと志を引き継がれているわけですから、佐藤先生はとても幸せな方だと思いました。その先生の言葉を刻んだ記念碑が近々湯殿山、仙人沢に「誓願碑」として建立されることになり、長谷川さんによればそれは次のようなものだそうです。



誓願の碑


普遍的な正しい誓いのたてられる人がいるうちは この世というのはきっと救われる 一人ひとりがそういう誓願をもって死ねたならば 必ずこの世に生きている人たちは救われる


湧気行代表 佐藤美知子


(裏) 教え子らを間違いのなき道に導かんと 身を捨てて祈り行じた 佐藤美知子師 そして この地にて衆生を救わんと行を修めた すべての御霊を称え この碑を建立する 平成十九年八月吉日


湧気行有志一同



ところで、出版記念の集いで歓談している時に、メンバーの皆さんの中にけっこうクリシュナムルティに関心がある人がいるということを聞きました。佐藤先生も生徒さんとの対話の中で「動機の確認」、つまり瞑想やその補助手段としての滝行を志す前に、まず何よりもその背後にある心の動きに目を向けるよう促し、そもそも「あなたはどういう人生を送りたいの?」と問いかけたりしています。これはあらゆる活動/運動の奥にある「自己」「わたし」「自分」というものへの気づきを深めることが何よりも先決であることを指摘している点で、確かにクリシュナムルティと大いに共通しています。今回、意外に身近なところでクリシュナムルティが生きていることを知り、思いを新たにしました。


ところで前回、クリシュナムルティの『既知からの自由』の刊行を準備中であるとお知らせしました。これは40年前に『自己変革の方法』として霞ヶ関書房から刊行されたもので、今も読み継がれている名著です。このたび大野龍一氏が翻訳を引き受けてくれ、よりわかりやすい訳文にしてくれたものです。少し遅れましたが、7月初めに全国配本することができました。この本については、編集者のメアリー・ルティエンスが次のように冒頭で述べています。



本書はクリシュナムルティの提案と承認のもと、まとめられたものです。内容は最近世界各地で聴衆相手に行なわれ、テープ収録された、彼の未刊の多くの講話から採られたものですが、その選択と配列は私の責任において行なわれたものです。


メアリー・ルティエンス


これに対して、訳者の大野龍一氏が次のような註を付けています。


本書の初版は一九六九年、すなわちクリシュナムルティ七十四歳のときの発刊だが、同じルティエンスによる伝記『クリシュナムルティ・実践の時代』 (高橋重敏訳 めるくまーる)によれば、Kのこの「提案」は一九六七年五月に行われた。だしぬけの要請に、彼女は反射的に「イエス」と答えてしまったものの、「四十年近くも」彼のものを読んでいなかった。そこで「ロンドンに帰ったとき、私はドリス・プラットに、最近の彼の講話の中で最良と思われるものはどれなのかと尋ねた。彼女は一九六三-六四年の講話を推薦してくれ、それらの年にインドやヨーロッパで行なわれた講話を正確にまとめた四巻にわたる記録を間もなく私に送ってくれた」 (訳書二六三頁)。だから、収録されているものはクリシュナムルティ六十八、九歳のときの講話だということになる。半年間放置しておいた後、彼女はそれらを精読し、持ち前の強迫的で徹底した仕事ぶりで編集に取りかかったが、「Kのためのこの最初の本に注いだほど熱意と興奮とを集中したことはなかった」とあるほど、それは彼女を夢中にさせた。タイトルの Freedom from the Known は「K自身によって選ばれた」 (同二六六頁)ものである。


次の目次が示すように、テーマは多岐にわたっており、まさに「クリシュナムルティ入門」にふさわしいものになっていますので、彼の洞察の全体を一瞥したい方にはぜひお読みただければと思います。


I. 人間の探求--苦悩する精神--伝統的アプローチ--社会的体面の罠--人間と個人--生存闘争--人間の基本的性質--責任--真理--自己変容--エネルギーの浪費--権威からの自由


II. 自分自身について学ぶこと--簡素さと人間性--条件づけ


III. 意識--生の全体性--気づき


IV. 快楽の追求--欲望--思考による歪曲--記憶--喜び


V. 自己関心--地位への渇望--恐怖と恐怖全体--思考の分裂--恐怖の終わり


V. 暴力--怒り--正当化と非難--理想と現実


VI. 関係--葛藤--社会--貧困--ドラッグ--依存--比較--欲望--理想--偽善


VII. 自由--反抗--孤独--無垢--あるがままの自分と共に生きること


VIII. 時間--悲しみ--死


IX. 愛


X. 見ることと聴くこと--芸術--美--簡素さ--イメージ--問題--空間


XI. 観察者と観察されるもの


XII. 思考とは何か--観念と行為--チャレンジ--物質--思考の始まり


XIII. 昨日の重荷--静かな精神--コミュニケーション--達成--規律--沈黙--真理とリアリティ


XIV. 験--満足--二元性--瞑想


XV. 全的革命--宗教的な精神--エネルギー--情熱



現在、アン・ワイザー・コネル著/大澤美枝子訳『すべてあるがままに--フォーカシング・ライフを生きる』を8月末刊行めざして準備中です。これは春頃刊行予定だったのですが、より良い訳で出したいという大澤先生の願いもあって遅れましたが、じっくり取り組んでいただいたため、とても良いものができそうです。


これはアン・ワイザー・コーネルのフォーカシング人生35年を辿る論文集で、大澤先生によれば、「アンが、最初から最後まで本書で伝えようとしていることは、究極の受容、究極のやさしさ、すべてにイエスと言うこと」です。そしてセラピストやカウンセラー、その他援助職の方だけでなく、広く一般の方が、自分の問題に自分で取り組めるように、この究極の哲学を、ただ理論や態度として学ぶだけでなく、例を示しながら具体的にわかりやすく説明し、技法として実際に練習できるように工夫すること--それが、アンの得意とするところで、本書には彼女のその才能がいかんなく発揮されています。


それから緊急出版として『ロジャーズのカウンセリング(個人セラピー)の実際』の刊行準備中です。


1953-55年頃に撮影されたロジャーズのカウンセリング面接ビデオ(白黒のもの)として専門家の間で知られているものに、『Miss Mun』というのがあり、これは、実際のセラピーの場面そのものをクライアントの諒解の下に収録したものとして貴重なものです。


このたび、そのビデオの日本語版が作成されたのに合わせて、録音の内容を英和対訳でテキストとしてまとめました。


ロジャーズの心理療法の核心が最もよく表現されているこのミス・マンとの面接は、多くのサイコセラピストやカウンセラーにとってきわめて有益な、パーソンセンタード・カウンセリング実習の最上のテキストです。この度、畠瀬稔先生からのご依頼により、急遽刊行することにしたものです。


最後に、『クリシュナムルティの生と死』も拙訳で準備中ですので、次回にお知らせしたいと思います。
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