第10回
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ある日レフ・ニコラーエウィチは荷馬車と一緒にモスクワの近くのある村を馬車で過ぎて行く時、人が豚を殺しているのを見た。「その中の一人が小刀でもって豚の咽喉笛を刺した。豚は叫んで、身を引きもいで、血まみれのままそこから逃げた。私は近眼だから、残らず精確に見たわけではなかった。ただ人間の肉体のように薔薇色をした豚の体を見、その絶望的な鳴き声を聞いたばかりだ。ただし私の馭者は一々残らず認めた。そして目を放さずその方を見ていた。豚は捕らえられ、打ち倒され、そして全く殺された。叫喚が鎮まった時、馭者は重く溜息をついた。『あんなことをして罰が当らないものでしょうか。』とそう独語った。」
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